学術論文の解説
Summery of Academic Paper
Summery of Academic Paper
Portions of the force–velocity relationship targeted by weightlifting exercises.
Takei S., Kambayashi S., Katsuge M., Okada J., Hirayama K.
Scientific Reports, 14:31021, 2024. https://doi.org/10.1038/s41598-024-82251-8
研究の狙い
ジャンプスクワット(JS)は下肢の力―速度関係(force–velocity: F–V)を幅広く評価・強化できる運動とされています。一方、ウエイトリフティングの代表的な種目であるハングクリーン(HC)やハングクリーンプル(HCP)が、下肢力-速度関係のどの部分に作用するかは明確ではありません。本研究では、HC・HCPとJSを比較し、ウエイトリフティング種目が有効に対象とする力-速度領域を明らかにしました。
主な知見
ハングクリーン(HC)は軽負荷(30–50%1RM)ではJSよりも力発揮が小さい。
ハングクリーンプル(HCP)も軽負荷(30–40%1RM)ではJSより力発揮が小さい。
しかし、中~高負荷(HC: 60–90%1RM、HCP: 50–110%1RM)ではJSと同等の力を発揮。
HCPはHCよりも広い速度領域をカバーできる。
結論として、ウエイトリフティング種目は「低~中速域」の力-速度関係を効果的に鍛える運動であることが示されました。
現場への応用
高速度域の強化(例:スプリント加速中盤の素早い動作)
→ ジャンプスクワット(0–40%1RM)を軽負荷で用いると良い可能性あり。
低~中速域の強化(例:スプリント加速初期、コンタクトスポーツの押し合い)
→ ハングクリーンやハングクリーンプルを中~高負荷で実施すると良い可能性あり。
実践的ポイント
ジャンプスクワットは着地衝撃が大きいため、安全装置や軽負荷で行うのが望ましい。
ウエイトリフティング種目は高負荷でも安全に実施可能で、特にHCPは幅広い速度域をカバーできる。
種目ごとの特性を理解し、「どの速度域を伸ばしたいのか」に応じてトレーニングを組み合わせることで、競技特性に沿った効果的なパワー向上が可能になります。
Muscle contraction type-specific association of acceleration and deceleration performance with rates of force development.
Kurosaki H., Tsubota E., Katsuge M., Hirata K., Hirayama K.
PeerJ, 13:e19862, 2025. 10.7717/peerj.19862
研究の狙い
スプリントや方向転換では、「素早く加速する力」と「確実に減速する力」の両方が重要です。本研究では、それぞれの動作と筋収縮様式ごとの力の立ち上がり率(Rate of Force Development: RFD)の関係を明らかにすることを目指しました。
主な知見
加速パフォーマンス(10ヤードスプリント)は 短縮性RFDと有意に関連。
減速パフォーマンス(COD deficit)は 伸張性RFDと有意に関連。
等尺性RFDはどちらとも関連を示さず。
つまり、加速と減速では必要とされる「RFDのタイプ」が異なることが初めて明確になりました。
現場への応用
加速力アップ → 爆発的な短縮性動作(例:ハングパワークリーン)で 短縮性RFD を強化すると良い可能性あり。
減速・方向転換力アップ → 高速エキセントリックスクワットや連続カウンタームーブメントジャンプで 伸張性RFD を強化すると良い可能性あり。
加速と減速を「別々の能力」として捉え、それぞれに応じたトレーニングを行うことで、競技現場でのスプリントや方向転換のパフォーマンス向上が期待されます。
Relationships between the ground reaction force during initial sprint acceleration and the vertical force–velocity profile.
Katsuge M., Kurosaki H., Watanabe H., Kambayashi S., Hirata K., Hirayama K.
PLOS One, 20(7): e0328225, 2025. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0328225
研究の狙い
スポーツで勝負を分ける「最初の一歩からの加速」。本研究では、その加速力を生み出す地面反力(地面を蹴る力)と、脚筋力の力―速度特性(force–velocity profile:筋力とスピードの関係を示す指標)との関係を明らかにすることを目指しました。
主な知見
筋力が強い選手(F₀:最大筋力)ほど、ダッシュの最初のステップから強い水平成分の床反力を出せる。
パワーが高い選手(Pmax:最大パワー)ほど、5歩目・9歩目など加速中盤のステップで力強く加速できる。
つまり、「前半は筋力勝負(強く押す力)」「中盤はパワー勝負(素早く押す力)」という役割分担が明確になりました。
現場への応用
前半の加速強化 → 高重量スクワットなどで「最大筋力」を伸ばす。
中盤の加速強化 → 軽めの負荷で素早く動くジャンプスクワットなどで「爆発的パワー」を高める。
スプリントを「一歩目からのストーリー」として捉え、ステップごとに最適化したトレーニングを組み合わせることで、競技現場での短距離加速力を効果的に伸ばせるかもしれない。
Does reactive shuttle test differentiate performance levels in youth soccer players?
Ito H., Hirayama K., Naito Y., Akama T.
Journal of Physical Education and Sport, 25(2): 363–369, 2025. https://doi.org/10.7752/jpes.2025.02041
研究の狙い
サッカーで重要な能力である「アジリティ(敏捷性)」は、方向転換と意思決定を伴う複合的な能力です。本研究では、リアクティブシャトルテスト(Reactive Shuttle Test: RST)が高校サッカー選手の競技レベル(スタメンと控え)を区別できるか、さらにRSTの成績とフィジカル能力・方向転換能力との関係を明らかにすることを目的としました。
主な知見
スタメン選手は控え選手よりも RSTとプロアジリティテストのタイムが有意に短かった。
差の大きさはプロアジリティよりもRSTの方が大きく、特にディフェンダーでは大きな差(d=1.16)が確認された。
RSTの成績とジャンプ・スプリント等のフィジカル能力との相関は弱く、身体能力よりも認知的意思決定や動作スキルが影響している可能性が示された。
現場への応用
選手評価
特にディフェンダーの実戦的アジリティを測定するのにRSTは有効。
単純なスプリントやジャンプだけでは測れない「反応して動く能力」を捉えられる。
トレーニング
アジリティ向上には筋力強化だけでなく、外部刺激に対して最適な動作姿勢を素早く取る練習が重要。
実戦を想定した「認知+方向転換」を組み合わせたドリル導入が有用だと考えられる。
リアクティブシャトルテストは、ユースサッカー選手の敏捷性を「試合に近い形」で評価できるテストとして、現場での選手選考や育成に役立ちそうです。